コラム 原価とは?基本的な計算方法や原価管理の進め方を解説

投稿日:2025/11/13
最終更新日:2025/11/13

原価管理は、企業の利益を左右する最も重要な経営活動の一つです。どれだけ売上を伸ばしても、原価を正確に把握・管理できていなければ、実際の収益性を正しく評価することはできません。原価とは、商品やサービスを提供するために発生した直接的な費用のことであり、その構成を明確にすることが、健全な経営の第一歩となります。

原価を適切に把握することで、無駄なコストを発見し削減することが可能になり、製品ごとの利益率を正確に算出できます。さらに、損益分岐点の把握によって「どの売上水準で黒字を維持できるか」を明確にできるため、経営戦略の立案にも大きく寄与します。

本記事では、原価の基本的な考え方から、業種別の計算方法、内訳の種類、そして正確な原価把握がもたらす経営メリットまでを体系的に解説します。原価管理の基本を理解し、コスト構造を最適化することで、より高い収益性と持続的な企業成長を実現しましょう。

この記事で分かること
● 原価の基本的な考え方と、材料費・労務費・経費など主要な内訳の違いがわかる
● 原価を正しく把握・管理することで得られる主な経営メリット(コスト削減・利益率向上・損益分岐点の明確化)が理解できる
● 実践的な原価管理の進め方(目標設定→実績把握→分析・改善)と、経営効率化につなげる具体的な手順が学べる

原価とは?

  • 「原価」とは、商品やサービスを製造・提供するために直接かかった費用のことを指します。企業活動においては、原価は売上と並ぶ最も重要な指標の一つであり、収益性を判断する基礎となります。一般的に、販売価格から原価を差し引いた差額が「利益」となり、その差をどれだけ確保できるかが企業の競争力を左右します。

    原価を正確に把握することで、いくつもの経営的メリットが得られます。例えば、適正な価格設定が可能になり、過剰な値下げや利益の取りこぼしを防ぐことができます。また、どの工程や材料に無駄が生じているかを明確にし、コスト削減の具体的な改善策を立てることもできます。さらに、正確な原価計算は利益率や損益分岐点の分析にもつながり、経営判断の精度を高めます。加えて、税務申告においても「売上原価」を正しく算出することは欠かせません。

    つまり、原価の管理は単なる数字の把握ではなく、企業の健全な経営と持続的な成長を支える重要な会計活動といえます。

原価の主な内訳

  • 原価とは、製品やサービスを提供するために発生するすべての費用の総称であり、主に「材料費」「労務費」「経費」の3つに分類されます。これらは原価の構成要素として、どの企業においても共通して重要な位置を占めています。それぞれの要素を正確に把握することで、どこにコストが集中しているかを明確にし、利益率の改善や生産性向上のための具体的な対策を立てることが可能になります。原価内訳の分析は、単なる会計処理ではなく、経営戦略の基礎ともいえる活動です。

    以下では、各要素の内容と特徴を詳しく見ていきましょう。

材料費

  • 材料費とは、製品の製造やサービス提供に必要な原材料・部品・副資材などにかかる費用を指します。多くの製造業において最も大きな割合を占める費用項目であり、原価全体の3~6割を占めるケースも少なくありません。材料費は、製品の性質や製造工程の複雑さ、原材料の調達コストなどによって大きく変動します。そのため、調達先の見直しや在庫管理の最適化は、コスト削減に直結する重要な経営テーマです。

    材料費はさらに「直接材料費」と「間接材料費」に分類され、それぞれ管理方法が異なります。

①直接材料費

  • 直接材料費とは、特定の製品を作るために直接使用される材料の費用です。たとえば、家具製造なら木材や金具、食品製造なら原材料の小麦粉や調味料、電子機器なら基板やチップなどが該当します。これらは製品1点ごとに使用量や単価を正確に特定できるのが特徴です。

    直接材料費の管理は、原価計算の精度を左右するため、材料単価の変動や廃棄ロスの記録を細かく追跡することが求められます。適切な材料発注や在庫回転率の改善は、原価低減とキャッシュフロー改善の両面で効果を発揮します。

②間接材料費

  • 間接材料費とは、複数の製品に共通して使用される補助的な材料や消耗品の費用です。たとえば、機械の潤滑油、清掃用具、作業用手袋、工具類、テープや包装資材などが挙げられます。これらは個々の製品に直接紐づけることが難しいため、部門単位や作業時間などを基準にまとめて配賦します。

    間接材料費は、細かく管理しすぎると手間がかかる一方、把握を怠ると経費が膨らみやすいため、合理的な配賦基準の設定が重要です。

労務費

  • 労務費は、製品の製造やサービス提供に関わる人の労働に対して支払われる費用を指します。人件費は固定費としての性格が強く、生産量にかかわらず一定額が発生することが多いため、労働生産性の向上が原価管理の鍵となります。また、労務費の水準は地域・業種・技能レベルによっても異なるため、正確な原価算定には実態に即した分類が不可欠です。

    労務費は「直接労務費」「間接労務費」「法定福利費」の3つに大別されます。

①直接労務費

  • 直接労務費は、特定の製品やサービスの提供に直接従事する作業員や担当者に支払われる賃金・手当・残業代などの費用です。たとえば、生産ラインで実際に製造を行う従業員や、建設現場で施工を行う職人などが該当します。

    直接労務費を正確に計上することで、製品1点あたりの人件費を算出でき、価格設定や工程改善の基礎データとして活用できます。

②間接労務費

  • 間接労務費とは、製造や業務を支援する間接部門の人件費を指します。たとえば、工場の管理者、品質管理担当者、庶務・経理担当者、設備保全スタッフなどがこれに含まれます。これらの人件費は複数の製品にまたがるため、時間配分や業務割合をもとに合理的に按分します。

    間接労務費を適切に管理することで、部門ごとの生産性を可視化し、組織全体のコスト意識を高めることができます。

③法定福利費

  • 法定福利費は、健康保険・厚生年金・労災保険・雇用保険など、法律で義務付けられている企業負担分の社会保険料を指します。これらは従業員を雇用する限り必ず発生するコストであり、実際の人件費の一部として正確に把握する必要があります。

    特に、従業員数や給与水準が変化すると支払額も大きく変わるため、労務費全体を通じて中長期的に管理することが重要です。

経費

  • 経費とは、材料費や労務費以外で、製品やサービスを提供するために必要となるその他すべての費用を指します。製造過程に直接関わるものから、工場運営や間接的な支援活動に関わるものまで範囲が広く、「直接経費」と「間接経費」に分類されます。

    経費の管理は、「固定費の削減」と「生産効率の最適化」を両立させるうえで欠かせません。

①直接経費

  • 直接経費は、特定の製品の製造やサービス提供に直接かかる費用を指します。代表的なものに、外部業者への外注加工費、製品検査費、特許使用料、特定プロジェクトの専用機器リース費などがあります。

    直接経費は、製品単位で把握しやすく、製造原価報告書や見積書の基礎データとしても活用されます。これらを正確に管理することで、原価計算の透明性と競争力のある価格設定が実現します。

②間接経費

  • 間接経費とは、複数の製品や部門に共通して発生する費用を指します。たとえば、工場の電気代・ガス代・水道代などの光熱費、設備や建物の減価償却費、機械メンテナンス費、事務用品費、リース料などです。

    これらは製品単位で直接把握できないため、配賦基準(例えば作業時間・面積・稼働率など)を用いて合理的に按分します。

    間接経費を適切にコントロールすることは、固定費削減や利益率の改善につながり、特に中小企業では経営体質を強化する上で大きな効果を発揮します。

原価を正しく把握することによるメリット

  • 原価を正確に把握することは、単なる会計処理にとどまらず、企業の経営力を高める重要な要素です。原価を分析することで、無駄なコストを削減し、事業ごとの収益性を明確にし、黒字を維持するための基準を確立できます。

    以下では、その主な3つのメリットを解説します。

無駄なコストの削減につながる

  • 原価を正確に把握することで、どの工程や部門で無駄なコストが発生しているのかを明確にできます。

    例えば、「差異分析」によって、計画時の原価(標準原価)と実際にかかった原価(実際原価)を比較すれば、コストが増加した原因を特定できます。材料費の高騰や作業効率の低下といった要因を突き止めることで、改善策を立てることが可能になります。

    また、原価分析によって製造工程の無駄や作業の重複を見直すことができ、業務の効率化にもつながります。無駄な支出を抑えることは、単にコスト削減にとどまらず、利益率の向上や経営体質の強化にも寄与します。

サービスの利益率が分かる

  • 原価を正しく把握することで、各製品やサービスがどの程度の利益を生み出しているのかを正確に判断できます。これにより、利益率の高い事業を強化し、低い事業を見直す戦略的な意思決定が可能になります。

    例えば、原価と販売価格を比較して利益率を算出することで、価格設定の妥当性を検証できます。利益率の低い商品はコスト削減や値上げを検討し、収益性を改善することができます。

    さらに、どの事業やサービスが最も利益に貢献しているかを把握すれば、経営資源(人材・予算・時間)を重点的に配分し、全体としての収益性を高めることができます。これは、将来的な投資判断や事業拡大計画にも大きな効果を発揮します。

黒字を維持するための基準が分かる

  • 原価を正確に管理することで、損益分岐点(売上と費用が等しくなる点)を把握できるようになります。これは、「どの程度の売上があれば赤字を防げるか」を示す経営上の重要な基準です。

    損益分岐点を理解していれば、原材料費や人件費の上昇といった外部環境の変化にも迅速に対応できます。コスト上昇が利益にどの程度影響するのかを予測し、値上げや経費削減といった適切な対策を講じることが可能です。

    また、黒字を維持するための売上目標やコスト削減目標が明確になり、組織全体で共通の目標を持って経営を進められます。データに基づいた経営判断ができることで、どんぶり勘定に陥るリスクを防ぎ、持続的な成長と安定した収益基盤を築くことができます。

原価管理の具体的な進め方

  • 原価管理は、単にコストを削減するための手法ではなく、企業全体で利益体質を強化するための重要なマネジメント活動です。その基本的な流れは「目標原価の設定 → 実際原価の把握・分析 → 改善策の実行」という3ステップで構成されます。

    以下では、それぞれのステップについて詳しく説明します。

目標原価を設定する

  • 原価管理の第一歩は、製品やサービスごとに達成すべき「目標原価(標準原価)」を明確に設定することです。

    製品企画や設計の段階から、品質・コスト・市場ニーズを総合的に考慮し、適正な目標原価を算出します。過去の原価データや市場価格、技術的な制約条件をもとに基準を設定することで、現実的かつ挑戦的なコスト目標を定められます。

    また、設定した目標原価は、製造部門・購買部門・営業部門など関係部署全体で共有することが重要です。これにより、企業全体が「同じ原価目標」に向かって取り組む体制を整えられ、部門間の連携を強化できます。

実際にかかった原価を把握・分析する

  • 次のステップは、実際の製造やサービス提供にかかった「実際原価」を正確に把握し、目標原価との差異(原価差異)を分析することです。

    まず、材料費・労務費・経費など、製品ごとの原価要素を正確に集計します。その上で、「なぜ目標よりコストが高くなったのか」を具体的に特定することが重要です。

    例えば、材料費の高騰、歩留まりの悪化、作業時間の延長など、要因を明確にすることで改善策を導き出せます。

    さらに、予実管理システムやBIツールを活用して原価情報を「見える化」することで、どの工程・どの部門でコストが膨らんでいるのかを即座に把握できます。こうしたデータの可視化は、迅速な意思決定と現場改善の推進に大きく貢献します。

改善策を考え、次の計画に生かす

  • 原価差異の分析結果をもとに、原因を取り除くための改善策を立案・実行します。

    例えば、仕入れ先の見直しによる材料費削減、作業手順の効率化、設備メンテナンスによる生産ロスの削減、購買・在庫管理システムの導入などが具体的な取り組み例です。

    また、単発的なコスト削減にとどまらず、PDCAサイクル(Plan・Do・Check・Act)を回し続けることで、継続的な改善を実現します。

    改善で得られた知見やデータは、次の製品設計や生産計画に反映させることで、組織としての原価管理能力が向上します。

    つまり、原価管理とは「問題を発見し、改善策を講じ、次に生かす」という循環型の経営プロセスであり、企業の利益向上を支える根幹的な仕組みといえます。

    まとめ

まとめ

  • 本記事では、「原価」の基本的な定義から、業種別の計算方法、原価の内訳、そして正確な原価把握によるメリットと進め方までを体系的に紹介しました。原価を正しく理解し管理することは、企業の利益構造を明らかにし、戦略的な経営判断を支える土台となります。目標原価を設定し、実際原価との差異を分析し、改善策を継続的に実行していくPDCA型のアプローチこそが、コスト削減・収益性強化を実現する鍵です。

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●コラム執筆者
クラウド販売管理システム s-flow
  • クラウド販売管理システム【s-flow】コラム編集部
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