最終更新日:2025/11/17
企業の経理・会計業務において計上は、単なる数字の入力作業ではなく、企業の経営状況を正確に示すための重要なプロセスです。取引を「いつ」「いくら」「どの勘定科目で」記録するかを決定し、最終的に財務諸表へ反映させることで、正しい業績把握や経営判断が可能になります。計上を誤ると、利益の過大・過小表示や税務リスクにつながるため、会計の基本原則である「発生主義」や「実現主義」に沿って処理を行うことが不可欠です。
また業種や取引内容によって売上を計上するタイミングは異なり、出荷基準や検収基準など、適切な判断基準を選ぶ必要があります。さらに、期末処理の精度や証憑書類の保管など、日々の運用面でも細心の注意が求められます。
本記事では、計上の基本的な考え方から実務での注意点までを解説し、正確な会計処理を支えるためのポイントを整理します。
この記事で分かること
● 「計上」とは何を意味するのか、記帳・仕訳・決済との違いを通じて経理・会計における基本的な役割と目的を理解できる
● 売上や費用を計上する適切なタイミング(発生主義・実現主義など)や業種別の判断基準を把握できる
● 計上ミスを防ぐための注意点(期末処理・勘定科目の選定・証憑保管など)と、実務での正確な運用ポイントが学べる

目次
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経理・会計における計上とは?
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計上とは、企業活動の中で発生したお金や資産の動きを、会計ルールに基づいて正式に帳簿へ記録し、最終的に決算書へ反映させる一連の行為を指します。
単なるデータ入力ではなく、「いつ」「いくら」「どの勘定科目で」取引を反映させるかを確定する重要なプロセスです。例えば、売上や仕入れといった取引は、発生のタイミングで「売上高」「仕入高」として計上され、損益計算書などの財務諸表に反映されます。
記帳との違い
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「記帳」は、日々発生する取引を帳簿や会計ソフトに記録する作業そのものを指します。例えば、売上が発生した際にその内容を会計ソフトに入力する行為が記帳です。これは比較的作業的な段階であり、会計処理の第一歩にあたります。
一方、計上は記帳を含む一連の処理を経て、その取引を会社の財務諸表に正式に反映させることを意味します。つまり、記帳が「データを入力する作業」であるのに対し、計上は「そのデータを経営数値として確定させること」です。例えば、月末の売上データを記帳したあと、決算でその金額を「売上高」として計上すれば、正式に企業の業績として扱われるようになります。
仕訳との違い
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「仕訳」は、取引を会計上のルールに基づき「借方」と「貸方」に分け、どの勘定科目でいくら動いたのかを明確にする作業です。例えば「現金100円で商品を仕入れた」という取引を「仕入100円/現金100円」と記録するのが仕訳にあたります。仕訳は、取引を分類・整理するための基礎的な工程であり、会計処理の最小単位です。
これに対して「計上」は、こうした仕訳の結果を集計し、決算書の各項目(売上高、仕入高、経費など)として反映させることを指します。言い換えると、仕訳は計上プロセスの一部に含まれる作業であり、計上はその最終的なゴールにあたります。したがって「仕訳」は個別の取引を整理する段階であり、「計上」はそれらをまとめて財務数値として確定させる段階という関係になります。
決済との違い
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「決済」は、実際にお金を支払ったり受け取ったりして取引を完了させる行為を指します。例えば、買掛金を支払って取引を終える、あるいは売掛金の入金を受けるといったケースが決済にあたります。決済は実際のお金の動きを伴うため、企業の資金繰り管理と密接に関係します。
一方で、「計上」は必ずしもお金の動きが発生した時点で行われるものではありません。会計では「発生主義」という考え方に基づき、取引が発生したタイミングで帳簿に記録します。例えば、商品を販売してまだ代金を受け取っていない場合でも、「売掛金」として売上を計上します。これは、現金の受け取り(決済)とは別に、経営実績を正確に把握するための処理です。
つまり、決済は「現金の動き」、計上は「取引の発生を記録する会計処理」であり、両者は連動しつつも異なる言葉です。
計上タイミングの基本的な考え方
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企業会計では「どのタイミングで収益や費用を計上するか」を明確に定めることが求められます。これを誤ると、実際の経営状況と帳簿上の数字にズレが生じ、正確な財務管理ができなくなるおそれがあります。
会計上の代表的な考え方には「発生主義」「現金主義」「実現主義」の3つがあり、それぞれの特徴を理解しておくことが重要です。
発生主義
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発生主義とは、現金の受け取りや支払いのタイミングに関係なく、取引が発生した時点で収益や費用を計上する考え方です。例えば、商品を後払いで販売した場合、代金がまだ入金されていなくても、商品を引き渡した時点で売上として計上します。
同様に、経費も支払いがまだでも、発生した時点で計上します。この考え方は、企業の経営成績や財政状態をより正確に反映できるため、日本の企業会計原則や国際会計基準(IFRS)で採用される標準的な方式です。発生主義を用いることで、期ごとの実際の収益性を正しく把握し、適切な経営判断が可能になります。
現金主義
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現金主義は、実際に現金や預金の入出金があった時点で収益や費用を計上する方法です。例えば、代金を受け取ったときに売上を計上し、支払いを行ったときに経費を記録します。現金の動きと帳簿上の数字が一致するため、資金管理が簡単で、会計知識が少なくても扱いやすい点が特徴です。
ただし、売掛金や買掛金といった「未回収」「未払い」の取引が反映されないため、実際の経営状況を正確に把握しにくいという欠点があります。そのため、法人企業では採用されず、税務上の特例として一定条件を満たす個人事業主のみが選択できる方式となっています。
実現主義
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実現主義とは、収益を計上するタイミングを「収益が実現した時点」とする考え方です。ここでいう「実現」とは、財やサービスの提供が完了し、対価の受け取りが確実になった状態を指します。例えば、商品販売の場合は、商品の引き渡しが完了した時点で売上を計上します。実現主義は発生主義の考え方に基づきながらも、「いつ収益を認識するか」をより具体的に定めたものです。
日本の会計基準では、費用は発生主義、収益は実現主義で計上することが原則とされています。2021年度から導入された「収益認識に関する会計基準」も、この実現主義の考えをより明確にし、収益計上のルールを国際的な水準に合わせたものです。
計上のタイミングを決める基準
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売上や収益をいつ計上するかは、企業の業種や取引内容によって異なります。会計上は、取引が「完了」または「確定」した時点を基準に売上を計上する必要がありますが、その判断基準には複数のパターンがあります。
ここでは、代表的な6つの基準である「出荷基準」「検収基準」「役務提供完了基準」「検針基準」「工事完成基準」「使用収益開始基準」について、それぞれの特徴と注意点を解説します。
出荷基準
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出荷基準は、商品を倉庫などから出荷した時点で売上を計上する方法です。出荷日をもとに売上処理を行うため、事務手続きがシンプルでスピーディに処理できるのが特徴です。そのため、日常的に大量の商品を扱う卸売業や製造業などで広く採用されています。
ただし、出荷後に商品が破損・紛失するなど、顧客に届く前にトラブルが発生した場合は、売上の修正や取消が必要になることがあります。物流リスクを考慮し、トレーサビリティ管理を徹底することが重要です。
検収基準
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検収基準は、納品された商品やサービスを顧客が検収(受領確認)し、問題がないと承認した時点で売上を計上する方法です。顧客側での受領確認をもって売上が確定するため、返品や修正のリスクを最小限に抑えられるのが特徴です。そのため、高額商品や品質管理が重要な業界(精密機器、建設資材、BtoB取引など)で多く採用されています。
一方で、顧客の検収が遅れた場合、売上計上も遅れる可能性があるため、決算期末では検収日の確認とスケジュール管理が欠かせません。
役務提供完了基準
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役務提供完了基準は、モノの販売ではなく、サービス(役務)の提供がすべて完了した時点で売上を計上する方法です。具体的には、コンサルティング、システム開発、デザイン制作、研修など、成果物を伴わないサービス業で採用されます。サービス提供の完了をもって収益を認識するため、実現主義の考え方に沿った会計処理といえます。
ただし、長期間にわたる案件では、完了まで売上を計上できないため、収益が一時的に偏ることがあります。その場合は「進行基準」と併用して期間配分を検討するケースもあります。
検針基準
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検針基準は、電気・ガス・水道などの公共料金のように、定期的にメーターを検針した時点で売上を計上する方法です。継続的にサービスを提供するビジネスモデルに適しており、使用量を計測して請求額を確定させることができます。会計処理がシステム化しやすく、月次処理にも向いていますが、検針日を基準とするため、利用期間が月をまたぐ場合には、実際の使用量と請求期間にズレが生じる可能性があります。そのため、期間損益を正しく反映させるには、検針サイクルと会計期間の整合性を意識する必要があります。
工事完成基準
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工事完成基準は、建設工事がすべて完了し、発注者に引き渡した時点で収益と費用を一括で計上する方法です。実現主義に基づく典型的な考え方であり、小規模な工事や短期間で完了する案件に多く採用されます。引き渡し完了の時点で成果物が確定するため、会計処理が明確で分かりやすい反面、長期にわたる大型工事の場合は、工期中の収益がまったく反映されないという欠点もあります。そのため、長期プロジェクトでは「工事進行基準」を用いるなど、期間損益の適正化を図る必要があります。
使用収益開始基準
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使用収益開始基準は、顧客が製品や設備などを実際に使用できる状態になった時点で売上を計上する方法です。主に不動産やリース取引、建物の販売などで採用されます。物件の引き渡しと同時に使用が開始されるケースが多く、収益認識のタイミングが明確である点がメリットです。
ただし、顧客がいつ実際に使用を開始したかを確認する必要があるため、契約書や引渡確認書などの証憑をもとに、適切な管理体制を整えることが求められます。これにより、会計上の透明性と信頼性を確保できます。
計上をする際の注意点
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正確な会計処理を行うことは、企業の信頼性を守り、健全な経営を維持するために欠かせません。計上のミスは利益の誤表示や税務上のリスク、経営判断の誤りにつながる可能性があります。ここでは、経理担当者が特に注意すべき4つのポイントを解説します。
計上漏れや二重計上に気を付ける
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計上漏れとは、発生した売上や費用を帳簿に記録し忘れることを指します。売上漏れは脱税と見なされる可能性があり、費用漏れは正確な利益を把握できなくなる原因となります。
一方、二重計上は同じ取引を誤って複数回記録してしまうことで、利益や費用が過大に表示され、財務諸表の信頼性を損ないます。これらを防ぐには、定期的に帳簿と請求書・通帳残高などを照合すること、経理フローを標準化すること、そして会計ソフトの自動照合機能を活用することが有効です。ミスを防ぐためのチェック体制を社内で明確にしておくと安心です。
特に期末は計上タイミングに注意する
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期末(決算期)は、取引の計上時期を誤ると利益の数値が大きく変動するため、最も注意が必要な時期です。例えば、年度末に出荷した商品の検収が翌年度になった場合、出荷基準なら当期、検収基準なら翌期の売上として扱われます。自社が採用している会計基準に従い、正しい会計期間に計上することが重要です。
期ずれを防ぐためには、期末前に「未計上取引がないか」「期をまたぐ取引の処理が正しいか」を確認するチェックリストを作成し、複数人でダブルチェックを行うと効果的です。特に期末処理では、スピードよりも正確性を重視する姿勢が求められます。
正しい勘定科目で計上する
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取引を正確に反映させるためには、内容に応じて適切な勘定科目を選ぶことが不可欠です。例えば、備品の購入は「消耗品費」、出張にかかる費用は「旅費交通費」、得意先との食事は「接待交際費」といったように、目的に合った科目で記録します。
勘定科目の誤りは、消費税の課税区分や法人税の損金算入可否に影響する場合があります。特に交際費や福利厚生費など、税務上の扱いが複雑な項目は慎重に判断する必要があります。迷ったときは経理責任者や税理士に確認し、社内の勘定科目ルールを明文化しておくとミスを防げます。
証憑書類を保管しておく
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すべての計上には、その根拠を証明する書類(請求書、領収書、契約書、納品書、預金通帳など)が必要です。これらの証憑は、税務調査や監査時に計上の正当性を示す重要な証拠となります。書類が欠けていると、計上が認められず、追徴課税の対象となるリスクもあります。
対策としては、電子帳簿保存法に対応した電子データ保管を導入するか、紙書類を日付順・取引先別に整理してファイリングする方法が有効です。証憑をきちんと管理しておくことは、正確な会計処理の基本であり、企業の信頼性を支える重要な仕組みです。
まとめ
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企業会計における「計上」は、単なる数字入力を超えて、取引をいつ、どの勘定科目で正式に帳簿に反映させ、最終的に決算書に組み込む重要なプロセスです。記帳・仕訳・決済といった各段階を経て初めて「計上」の処理が完結し、これにより企業は正確な財務情報をもとに経営判断や税務申告を行えるようになります。
しかし、計上ミスやタイミングの誤りは、利益の過大・過小表示、税務リスク、信用低下などにつながりかねません。そのため、会計基準や実務ルールを理解し、厳密な運用体制を整えることが不可欠です。
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