最終更新日:2025/12/09
原価計算とは、企業が製品やサービスを提供するためにかかった費用(原価=コスト)を正確に把握し、利益計算や経営判断の基盤となる重要な仕組みです。製造業だけでなく、サービス業や小売業など幅広い業種で活用され、財務諸表の信頼性にも直結します。また、日本には原価計算の統一ルールとして「原価計算基準」が定められており、公正かつ合理的な原価計算を行うための指針となっています。
本記事では、原価計算の基本から目的、計算ステップ、原価の分類まで体系的に整理し、経営管理にどのように生かせるのかを分かりやすく解説します。
この記事で分かること
● 原価計算の基本的な仕組みと「原価計算基準」が果たす役割
● 財務諸表作成・価格設定・コスト管理など、原価計算が担う主な目的
● 原価計算の3ステップと、実務で使われる代表的な原価分類の考え方

目次
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そもそも原価計算とは?
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原価計算とは、企業が製品やサービスを提供するために「どれだけの費用(原価)」がかかったのかを明らかにするための基本的な仕組みです。材料費・人件費・経費といった実際に発生したコストを正確に集計することで、企業は利益を正しく把握でき、経営判断の精度を高めることができます。例えば、原価を把握することで「どの製品が利益を生んでいるのか」「どの工程に無駄があるのか」といった点が見えてくるため、改善活動の方向性を決めるうえでも非常に重要な役割を果たします。
また、原価計算は製造業だけが行う特殊な業務ではありません。サービス業であれば作業時間やスタッフの工数、小売業であれば仕入れ価格と販売管理コスト、飲食業であれば食材費や人件費など、どの業種でも「どれだけ使って、どれだけ利益が残ったのか」を把握するための基盤となります。さらに、原価計算の結果は売上原価や棚卸資産として財務諸表に反映されるため、外部の投資家や金融機関に対して企業の健全性を示す重要な情報源となり、信頼性の確保にもつながります。
原価計算基準とは?
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原価計算基準とは、日本公認会計士協会によって1950年代に制定された「原価計算に関する統一ルール」※のことです。企業が財務諸表を作成したり、製造原価や売上原価を計算したりする際に、原価計算を公正・合理的・継続的に行うための原則を示した指針として長年活用されています。
原価計算の目的や計算方法、費用の分類の仕方などについて一定のルールを設けることで、企業内部だけでなく外部の関係者に対しても透明性の高い情報を提供できるように設計されています。
この原価計算基準が存在することにより、企業ごとにバラバラな方法で原価を計算するのではなく、一定の枠組みに沿って処理が行われるため、財務諸表の信頼性や他社との比較可能性が大きく向上します。
また、原価計算基準は企業会計基準や管理会計の実務にも強い影響を与えており、企業が正しい経営判断を行うための基盤を支える役割を持ちます。適切な原価計算を行うことは、利益の算定だけでなく、企業の健全な経営そのものに直結する重要なプロセスなのです。
※参考 企業会計審議会 原価計算基準
原価計算の5つの目的
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原価計算は、単に「コストを計算するための仕組み」と捉えられがちですが、実際には企業運営のあらゆる場面で重要な役割を果たす、多機能な管理手法です。財務報告や価格設定、コスト改善といった日常的な経営活動から、中期・長期の経営戦略の立案まで幅広く活用されます。
特に代表的なのが、財務諸表の作成、販売価格の決定、コスト管理、予算編成・予算統制、そして経営基本計画の設定という5つの目的です。これらを理解することは、原価計算が経営全体にどのように貢献しているかをより深く理解するうえで非常に重要です。
財務諸表の作成
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損益計算書(P/L)や貸借対照表(B/S)を適切に作成するためには、製造原価を正確に算出することが欠かせません。原価計算によって集計されたコストは、売上原価の計算や棚卸資産の評価にも直結し、最終的な利益の数値にも影響を与えます。
外部の投資家、株主、金融機関に対して信頼性の高い情報を提供するためにも、原価情報の正確性は非常に重要です。また、会計基準に準拠した原価計算を行うことで、企業の財務報告の透明性や客観性も高まり、企業の信用力向上にも寄与します。
販売価格の決定
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製品やサービスの販売価格を決める際、原価情報は最も重要な基礎データとなります。原価を把握せずに価格を設定してしまうと、利益が出ない販売価格になり赤字を招く可能性があります。
原価計算によって明らかになったコストを基に、競合他社の価格や市場の動向、顧客の価格感度などを考慮しながら、適切な価格設定ができます。こうしたプロセスによって、企業は利益を確保しながら競争力のある価格戦略を実現できます。
コストの管理
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利益を安定的に確保するためには、不要なコストを削減し、生産性を向上させる取り組みが不可欠です。原価計算を通じて、どの工程でどれだけ費用が発生しているかを詳細に把握することで、非効率な作業や過剰な材料使用など、ムダの原因を発見できます。
さらに、標準原価と実際原価の差異を分析することで、改善すべきポイントがより明確になり、現場での改善活動(カイゼン)や経営改善にも直接つながります。
予算編成・予算統制
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企業が翌期の活動計画を立てる際には、売上目標だけでなく、原価に関する予算の設定は必須です。原価計算は、こうした予算編成のための重要な基礎データを提供します。設定した予算と実際の原価を比較することで、経営計画がどれだけ達成されているか評価でき、問題があれば早期に改善策を講じることも可能です。
限られた経営資源をどこに集中させるべきかを判断する際にも、正確な原価情報は非常に役立ちます。
経営基本計画の設定
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企業が長期的に成長していくためには、収益構造を正しく把握し、将来的な投資や事業戦略を練ることが重要です。原価計算は、製品や事業ごとの採算性を明確にし、どの分野に経営資源を投入すべきか、または撤退すべきかといった重大な意思決定の根拠となります。
中期計画や経営戦略の立案においても、原価データは基盤となる情報であり、企業の方向性を定めるうえで欠かせない存在です。
原価計算の3つのステップ
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原価計算は、企業が「どれだけコストがかかったのか」を正しく把握するために、段階的に費用を整理・集計していくプロセスです。多くの企業で採用されている一般的な流れは、費目別計算 → 部門別計算 → 製品別計算 の3ステップです。
この順序を踏むことで、まず費用の種類ごとに整理し、その後どの部門で発生したのかを把握し、最終的に製品単位で原価を算出できるようになります。原価の構造が段階ごとにクリアになっていくため、採算管理や経営判断に必要な「精度の高い原価情報」を得られる点が大きな特徴です。
1.費目別計算
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費目別計算は、原価計算の最初のステップで、発生した費用を「材料費」「労務費」「経費」など項目ごとに分類して集計する工程です。どの費用がどれだけ発生しているのかを正確に把握できるため、ムダな支出や原価上昇の原因を早期に発見することができます。
例えば、材料費が増えているのであれば仕入れ単価の上昇が原因かもしれませんし、労務費が増えているのであれば残業の増加や作業効率の低下が考えられます。このように、費目別計算は後の改善施策のヒントを得るための「最初の分析ステップ」として非常に重要です。
2.部門別計算
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部門別計算は、費目別に分類された費用を「どの部門で発生したか」という視点で再集計する工程です。製造部門・加工部門・品質管理部門・管理部門など、部署ごとにコストを明確にすることで、部門ごとの生産性や効率を評価できるようになります。
特に共通費(家賃や光熱費など)は、どの製品にも間接的に関係するため、作業時間・従業員数・機械稼働時間といった客観的な指標にもとづいて配賦(按分)する必要があります。適切な配賦基準を設定することで、部門間の負担が公平になり、原価計算全体の精度も大きく向上します。
3.製品別計算
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製品別計算は、原価計算の最終ステップであり、部門別にまとめられた費用を製品ごとに割り振り、最終的な「製造原価」を算出する工程です。製品単位で原価が明確になることで、採算が取れているかどうか、利益率は十分か、どの製品に改善余地があるかといった分析が可能になります。
適切な製品別計算は、単に原価を計算するだけでなく、販売価格設定や利益計画、生産量の調整など、企業の意思決定全般に関わる重要な指標となります。利益率が高い製品ラインを強化したり、利益が低い製品の改善策を考えたりするためにも、このステップは欠かせないプロセスです。
原価の分類
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原価は、目的や利用する場面に応じて多様な角度から分類することができます。これらの分類を理解することで、原価計算をより柔軟に使い分けられるようになり、経営判断の精度向上や改善活動の効果を高めることができます。
特に代表的な区分として、「実際原価と標準原価」「製品原価と期間原価」「全部原価と部分原価」の3つがあり、それぞれが異なる用途や分析手法に結びついています。経営者や管理部門が状況に応じて適切な原価分類を選択できるかどうかは、その後の意思決定の質を大きく左右します。
実際原価と標準原価
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実際原価とは、その名の通り、製品やサービスの提供にあたって実際に発生した費用を集計した原価のことです。材料費・労務費・経費など、現場でかかったコストをそのまま合算するため、「本当にいくらかかったのか」を正確に把握できます。実際の支出ベースで管理できるため、財務諸表や売上原価の算定にも不可欠な情報です。
一方、標準原価とは、企業が目標とすべき「理想的なコスト」を事前に設定したものです。過去のデータ、作業時間の標準、改善活動の目標値などを基に計算されます。標準原価と現実の実際原価との差を比較することで、ムダや非効率がどこで発生しているのかを特定でき、改善活動に役立ちます。生産性向上や原価低減を進める上で、標準原価は重要な管理ツールとなります。
製品原価と期間原価
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製品原価とは、製品の製造に直接関係する費用のことで、材料費・労務費・製造経費などが該当します。製品1個あたりの原価を算定する際に用いられ、製造原価を構成する基本的な情報です。また、製品原価は売上原価として損益計算書に反映されるため、財務上の利益計算にも直接影響します。
一方、期間原価とは、一定の期間に発生した販売費や一般管理費といった、製造量に関係なく発生する費用を指します。人件費、広告費、事務所の家賃などが該当し、これらは製品に紐づくものではなく、期間単位で費用として処理されます。損益計算書では販管費として計上されるため、企業全体の収益性分析において欠かせない概念です。
全部原価と部分原価
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全部原価とは、製品の製造に関わる固定費・変動費のすべてを含めた原価のことです。材料費だけでなく、工場の家賃や設備の減価償却費も原価として扱うため、総合的な採算性を判断する際に利用されます。財務諸表の作成や伝統的な原価計算で一般的に採用される考え方です。
一方、部分原価は、意思決定に必要な一部の費用だけを取り出して分析する手法です。例えば、追加受注を受けるかどうか判断する際には、「追加生産で増える費用=変動費」のみを考慮すれば十分なケースが多く、固定費まで含める必要はありません。このように、部分原価は意思決定の場面に応じて柔軟に使えるため、管理会計の現場で非常に重宝されます。
まとめ
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原価計算は、企業が製品やサービスを提供するためにかかった費用を明確にし、利益計算や経営判断の基礎となる重要な仕組みです。原価計算基準によって統一されたルールのもとで原価を算出することで、財務諸表の信頼性が高まり、他社との比較や内部管理の精度も向上します。また、原価計算には財務諸表の作成、販売価格の決定、コスト管理、予算統制、経営戦略立案といった複数の目的があり、それぞれが企業活動を支える重要な役割を果たします。
さらに、原価計算は費目別・部門別・製品別という3つのステップで行われ、原価の分類方法も実際原価・標準原価、製品原価・期間原価、全部原価・部分原価など多岐にわたります。これらを使いこなすことで、より精度の高い原価管理や経営意思決定が可能になります。
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