最終更新日:2025/12/11
製造業の利益を左右する重要な指標の一つが「製造原価」です。しかし、材料費や人件費、工場の光熱費など多くの要素が関係するため、正しく理解して管理するには一定の知識が求められます。また、製造原価とよく似た言葉に「売上原価」がありますが、この2つには明確な違いがあり、区別して把握することが経営判断の精度を大きく高めます。
本記事では、製造原価の基本的な考え方から構成要素、売上原価との違い、さらに代表的な計算方法や管理のポイントまで、初めての方でも分かりやすく解説します。
この記事で分かること
● 製造原価とは何か、売上原価とはどう違うのか
● 材料費・労務費・経費など、製造原価を構成する3つの要素
● 代表的な原価計算方法と、効率的に原価管理を行うためのポイント

目次
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製造原価とは?
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製造原価とは、製品をつくるために実際にかかった費用の総額を指します。具体的には、原材料の仕入れにかかった費用だけでなく、製造に携わる従業員の人件費、工場で使用する電気代や機械設備の維持費など、製造に関わるあらゆる費用が含まれます。
製造原価は「製造した全製品の費用」を示す点が特徴で、売れた分の費用を示す「売上原価」とは区別されます。売上原価は販売に対応した費用を表すため、在庫として残った製品にかかった費用は製造原価に含まれるものの、売上原価には反映されません。企業が利益を把握したり生産体制を見直したりする際、正確な製造原価の把握は重要な役割を果たします。
製造原価を構成する3つの要素
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製造原価は「材料費」「労務費」「経費」という3つの要素から構成されます。これらを正しく分類して把握することで、どの工程にどれだけコストがかかっているかを明確にでき、効率的な原価管理やコスト削減につながります。
材料費
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材料費とは、製品の製造に直接使われる原材料や部品にかかる費用のことです。例えば、家具であれば木材・釘・接着剤、食品であれば小麦粉・砂糖・調味料などが該当します。
材料費は製品の品質や価格に大きく影響するため、仕入れルートの見直しや材料価格の変動管理が利益確保の鍵となります。大量仕入れによるコストダウンや代替材料の検討など、企業が取り組める改善施策も多く、製造原価の中でも特に管理が重要な項目です。
労務費
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労務費は、製造に携わる従業員に支払う賃金・手当・賞与などの人件費を指します。同じ製造量であっても、作業効率や人員配置の工夫によって大きくコストが変わる点が特徴です。
製造ラインの効率化やスタッフのスキル向上、適正な配置を行うことで、労務費の削減効果は非常に大きくなります。人件費は固定費化しやすい一方で、改善余地も大きいため、生産性向上の取り組みが企業の競争力に直結する費用項目です。
経費
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経費とは、材料費・労務費以外に製造活動に必要な間接的な費用を指します。例えば、工場の家賃、水道光熱費、機械設備の減価償却費などが挙げられます。
これらは特定の製品に直接紐づかないため、「どの基準で各製品に割り振るか(配賦基準)」が重要です。作業時間や稼働率、スペースの占有率など、実態に合った基準で配賦することで原価計算の精度が向上し、より正確な収益管理が可能になります。
製造原価と売上原価の違い
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製造原価と売上原価は似た言葉ですが、対象とする範囲が大きく異なります。製造原価は「製造したすべての製品にかかった費用」であるのに対し、売上原価は「実際に販売された製品に対応する費用」を指します。どちらも企業の利益計算に深く関わる重要な指標ですが、役割や用途は明確に分かれています。
ここでは、それぞれの違いや具体例、両者の関係性を整理して解説します。
主な違い
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製造原価は、一定期間に製造した全製品にかかった費用を指します。材料費・労務費・経費など、製造のために必要なすべての費用が含まれ、主に生産管理や原価管理に活用されます。
一方、売上原価は「販売された製品」に対応する費用であり、損益計算書(P/L)の中で利益を算出する際に用いられる項目です。売上と比較することで、どれだけ効率的に利益を生み出せたかを判断できます。
また、売上原価は製造原価を基礎データとして算出されるため、製造原価の精度が売上原価にも影響します。つまり、製造原価が正しく計算されていなければ、その後の財務分析も正確にならないということです。
それぞれの具体例
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具体例を用いると、両者の違いはさらにわかりやすくなります。
例えば、ある工場が1,000個の製品を作った場合、その1,000個の材料費・労務費・経費の総額が「製造原価」です。一方で、そのうち800個が実際に販売されたとすると、800個分に対応する費用が「売上原価」として計上されます。残りの200個はまだ販売されていないため、その費用は売上原価ではなく「棚卸資産(在庫)」として扱われます。
このように、製造原価は生産量を基準にし、売上原価は販売数を基準にして計算される点が大きな違いです。
両者の関係性
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売上原価は、製造原価を基に次の計算式で求められます。
売上原価=期首製品棚卸高+当期製品製造原価-期末製品棚卸高
この式からわかる通り、製造原価は売上原価の基礎データとなり、正確な製造原価計算がその後の財務分析の信頼性を左右します。
また、製造原価は内部管理や生産効率の分析に活用される一方、売上原価は損益計算書上の利益計算に直結します。両者は目的は異なりますが、企業の経営判断に欠かせない密接な関係を持つ数値です。
製造原価の分類方法
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製造原価は「材料費・労務費・経費」の3要素で構成されますが、それらをさらに性質ごとに分類することで、コスト構造がより明確になります。企業が原価管理を行う際には「直接費と間接費」「変動費と固定費」という2つの分類がよく使われており、生産計画や価格設定、利益管理の判断に大きく役立ちます。
ここでは、それぞれの特徴と分類する際のポイントを解説します。
直接費と間接費
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直接費とは、特定の製品に対して明確に対応させることができる費用のことです。例えば、家具で使用する木材や部品代、ある製品の製造に直接従事する職人の賃金などが該当します。これらは「どの製品に使われた費用か」がはっきりしているため、製品単位で正確に集計できます。
一方、間接費とは、複数の製品に共通して発生する費用を指します。工場の家賃、電気代、機械の減価償却費などが代表例で、特定の製品に直接結びつけることが難しい費用です。そのため、作業時間・機械稼働時間・スペースの占有率など、実態に合わせた「配賦基準」を設定して製品ごとに割り振る必要があります。この配賦が正確にできるかどうかが、原価計算の精度を大きく左右します。
変動費と固定費
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変動費とは、生産量に比例して増減する費用のことです。代表例には、小麦粉や砂糖などの原材料費、燃料費、梱包資材の費用などがあります。大量に作れば作るほど費用も増え、逆に生産量が減れば費用も下がるのが特徴です。
一方、固定費は生産量に関係なく一定額発生する費用を指します。工場の家賃、機械装置の減価償却費、正社員の基本給などが該当し、生産量が増えても減っても支出額は大きく変わりません。
変動費と固定費を区別することで、企業は損益分岐点の計算や価格設定をより正確に行えるようになります。例えば「いくつ製品を売れば利益が出るのか」「生産量を増やしたときの利益はどれくらい増えるのか」など、経営判断の基礎となる分析が可能になります。
製造原価報告書とは?
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製造原価報告書とは、一定期間に製造した製品にどれだけの費用がかかったのか、その総額と内訳をまとめた書類です。材料費・労務費・経費の合計を整理し、どの工程にどれだけコストが発生したかを可視化できるため、企業の原価管理において非常に重要な役割を果たします。
また、製造原価報告書は損益計算書(P/L)における「売上原価」を算出するための基礎資料でもあります。製造原価が正確に把握できていなければ、利益計算にも誤差が生じてしまうため、財務上の信頼性を確保するためにも欠かせない書類です。
さらに、製造現場でのコスト構造を明確にすることで、ムダの発見や改善策の立案にもつながります。コスト削減や生産効率の向上、経営判断の精度を高めるためにも、製造原価報告書の活用は企業にとって大きなメリットとなります。
製造原価の計算方法
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製造原価を算出する方法にはいくつか種類があり、自社の生産形態や求める精度に応じて適切な手法を選ぶ必要があります。一般的に利用される原価計算の方法は「個別原価計算」「総合原価計算」「標準原価計算」の3つです。それぞれの特徴と向いている業種を解説します。
個別原価計算
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個別原価計算とは、製品ごと・案件ごとに材料費・労務費・経費を集計し、正確に原価を把握する方法です。オーダーメイドのように一つ一つ仕様が異なる製品を扱う場合や、案件単位で費用管理が必要な場合に適しています。
造船、建設、印刷、オーダー家具制作など、受注生産型の業種で広く採用されており、案件ごとに「何にいくらかかったか」が明確になる点がメリットです。ただし作業記録や費用の振り分けが細かく必要となるため、手間と時間がかかるという課題もあります。
総合原価計算
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総合原価計算は、一定期間に発生した総製造費用を平均し、製品1単位あたりの原価を算出する方法です。大量生産を行う工場に向いており、同じ規格の製品を継続的に作る場合に効率よく原価を求められます。
食品や化学製品、製紙、石油化学など、大量生産が前提の業種で一般的に採用されています。計算が比較的簡単で、手間が少ない点がメリットですが、個別案件の正確な原価把握には向いていません。
標準原価計算
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標準原価計算とは、過去の実績データをもとに「あるべき原価(標準原価)」を設定し、それと実際に発生した原価との差(差異)を分析する方法です。差異が生じた原因を把握することで、ムダの発生箇所を特定したり、生産効率の改善に生かしたりすることができます。
コスト削減や業務効率化を重視する製造業で多く用いられる手法で、原価の予算管理や生産計画と連動させやすい点が特徴です。標準原価の設定には一定の分析が必要ですが、適切に運用すれば経営判断の質を大きく高めることができます。
製造原価を管理するときのポイント
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正確な製造原価の把握は、利益改善や効率的な生産管理に欠かせません。しかし、ただ原価を集計するだけでは十分ではなく、「どの費用がどのように発生しているのか」を的確に管理することが重要です。
ここでは、製造原価管理を行う際に押さえておきたい4つのポイントを解説します。
製造間接費を適切に配賦する
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製造間接費とは、家賃・光熱費・機械の減価償却費など、複数の製品に共通して発生する費用のことです。これらは製品ごとに直接紐づかないため、「どの基準で各製品に割り振るか(配賦)」が製造原価の精度を大きく左右します。
例えば、生産量・作業時間・機械稼働時間など、実態に合った配賦基準を設定することで、製品ごとのコストがより正確に算出できます。また、部門別に間接費を配賦する「部門別配賦」を取り入れれば、工程ごとのコスト構造も把握しやすくなり、原価の信頼性がさらに高まります。
棚卸資産を正確に把握する
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棚卸資産とは、原材料・仕掛品(製造途中のもの)・製品在庫の総称です。原価計算では在庫の数量や状態を正確に把握することが重要で、ズレが発生すると製造原価や売上原価に直接影響してしまいます。
定期的に棚卸を行うことで、数量の誤差や不良品の発生を早期に発見し、無駄な在庫を減らすことができます。さらに、在庫管理システムを導入すれば、入出庫のデータをリアルタイムで確認でき、記録漏れや人的ミスを防ぐことにもつながります。
生産形態に合わせた計算方法を選ぶ
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製造原価の計算方法は「個別原価計算」「総合原価計算」「標準原価計算」など複数あり、生産形態によって適した手法が異なります。自社の製品が多品種少量生産なのか、定型品の大量生産なのか、あるいは改善活動に重点を置くのかに応じて手法を選ぶことが重要です。
例えば、受注生産なら「個別原価計算」、大量生産なら「総合原価計算」、コスト削減や効率改善を強化したい場合は「標準原価計算」が向いています。目的に合った手法を採用することで、より正確な原価把握と経営判断が可能になります。
システムを導入して人的ミスを減らす
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販売管理システムや原価管理システムを導入することで、材料費・労務費・経費などのデータを自動で収集・一元管理できるようになります。手入力の工数を削減できるだけでなく、データの抜け漏れや計算ミスの防止にもつながります。
さらに、需要予測や生産計画と連携できるシステムであれば、過剰在庫や欠品を防ぎ、無駄なコストを抑えることが可能です。情報がリアルタイムで共有されるため、現場と管理部門が素早く意思決定でき、生産効率の向上にも寄与します。
まとめ
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製造原価は、製品をつくるために実際にかかった費用の総額であり、材料費・労務費・経費の3つの要素から構成されています。また、製造原価と売上原価は混同されやすいものの、対象範囲や役割が異なり、企業の生産管理と財務管理の両面で重要な指標となります。
さらに、製造原価は「直接費と間接費」「変動費と固定費」といった分類方法によってコスト構造を詳しく把握でき、原価計算には個別原価計算・総合原価計算・標準原価計算の3つの手法があります。これらを適切に使い分けることで、原価の可視化や利益改善が可能になります。
製造原価を管理する際には、製造間接費の配賦や棚卸資産の把握、生産形態に合った計算方法の選定、システム導入による人的ミスの削減といったポイントを押さえることが重要です。原価情報を正確に管理することで、経営判断の精度が高まり、コスト削減にも直結します。
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