最終更新日:2025/10/23
売上原価の基礎をやさしく整理し、販管費との違いとP/L上の位置づけ、計算式(期首在庫+仕入−期末在庫)を具体例で説明します。小売・製造・飲食・サービスの業種別の特徴を押さえ、在庫管理や価格戦略の見直し、販売管理システム活用で利益を高める方法まで解説します。

目次
-
1.
-
2.
-
3.
-
4.
-
5.
-
6.
-
中小企業にとって「売上原価」は、収益や利益率を左右する重要な指標です。売上原価を正しく理解し管理することは、経営判断の質を高め、利益を最大化するために欠かせません。
本記事では、売上原価とは何か、販管費(販売費及び一般管理費)との違い、売上原価が企業経営で重要な理由について解説します。さらに、売上原価の計算方法や業種・業態ごとの売上原価の特徴を詳しく説明し、最後に売上原価を改善する方法として販売管理システムの活用をご紹介します。
この記事で分かること
● 売上原価の基本的な意味や販管費との違い
● 売上原価が企業の利益に与える影響と重要性
● 売上原価の計算方法と業種ごとの原価の特徴
● 売上原価改善のポイントと販売管理システム導入のメリット
売上原価とは?
-
売上原価とは、商品やサービスを販売する際に直接かかった費用を指します。例えば小売業なら仕入代金、製造業なら原材料費や製造にかかった人件費、光熱費などが含まれます。重要なのは「販売した分だけ」が対象となる点です。仕入れても販売していない在庫分は、売上原価ではなく資産(棚卸資産)として計上されます。
損益計算書(P/L)では、売上高の直下に売上原価が表示されます。売上高から売上原価を差し引いた金額が「売上総利益(粗利)」です。粗利は企業のもうけの基本となる指標であり、この数字を基に販管費や営業利益が算出されます。
例えば、単価100円の商品を500個仕入れた場合、合計で5万円の仕入代金となります。そのうち300個を販売したとすると、売上原価は3万円です。残り200個分は在庫として翌期に繰り越されます。このように売上原価は「販売分に対応するコスト」を表すものであり、在庫は含まれない点を理解することが大切です。
販管費との違い
-
売上原価と混同されやすいのが「販管費(販売費および一般管理費)」です。両者はどちらも事業にかかる費用ですが、内容が大きく異なります。売上原価は商品やサービスを提供するための直接費用で、仕入代金や原材料費、工場の人件費などが該当します。一方、販管費は販売活動や事業運営のために発生する間接費用で、広告宣伝費や営業スタッフの人件費、オフィス賃料などが含まれます。
具体例としてレストランを考えてみましょう。料理に使う食材費や調理スタッフの人件費は売上原価です。これに対し、チラシ作成費や事務スタッフの給与は販管費に分類されます。この違いを理解することで、どこにコストがかかっているかを把握でき、経営改善の着眼点が明確になります。
営業利益は「売上高−売上原価−販管費」で算出されます。つまり、利益改善のためには「売上を増やす」「売上原価を下げる」「販管費を下げる」の3つの方向性があります。両者を正しく区別して管理することが、企業の収益力を高める第一歩です。
売上原価が企業経営において重要な理由
-
売上原価は企業の収益性を測るうえで中心的な役割を担います。売上高から売上原価を差し引いた「粗利(売上総利益)」は、販管費や広告費などを賄うための原資となります。十分な粗利が確保できなければ営業利益は確保できず、企業の持続的な経営は困難です。そのため売上原価は、利益確保の要といえます。
また、売上原価を正しく管理すれば、価格戦略や利益率改善に役立ちます。商品ごとの原価率(売上高に対する売上原価の割合)を把握することで、値付けや仕入先の見直しといった戦略的な判断が可能になります。原価率が高すぎる商品は価格改定を検討し、逆に十分な粗利が取れている商品は競争力維持のために価格据え置きを選択するといった柔軟な対応ができます。
さらに、原材料費や仕入価格が変動した場合、売上原価の動きを日常的に把握していれば、早期に影響額を見積もり、仕入先変更や代替材料の検討など迅速な対応が可能です。これにより、利益を圧迫する前に打ち手を打てます。
売上原価を詳細に分析することで、在庫ロスや製造工程のムダといった改善余地も見つかります。例えば、食品ロスを減らせば浮いたコストを品質向上や新商品の開発に回せます。このように、売上原価管理は単なるコスト削減にとどまらず、品質改善や競争力強化につながります。
加えて、税務調査でも売上原価の妥当性は重視されます。不自然な増減は指摘対象となり、場合によっては追徴課税につながるリスクもあります。正確な売上原価を把握することは、経営の健全性を守るうえでも不可欠です。
売上原価の計算方法
-
売上原価を正しく把握するには、計算式を理解することが欠かせません。基本の式は次の通りです。
売上原価 = 期首在庫 + 当期仕入 − 期末在庫
ここで期首在庫とは期初に残っていた在庫の総額、期末在庫は期末時点に残っている在庫の総額を意味します。この式により、当期に実際に販売された分だけのコストを算出できます。仕入れた分すべてが売上原価になるわけではなく、売れ残った在庫は棚卸資産として翌期に繰り越されます。
具体例を挙げると、前期末に500円の商品10個(5,000円分)を在庫としていたとします。当期に100個(50,000円分)仕入れ、期末に20個(10,000円分)が残った場合、売上原価は「5,000円+50,000円−10,000円=45,000円」となります。つまり販売した90個分のコストだけが売上原価に含まれます。
この仕組みは小売業や卸売業で広く使われますが、製造業では「当期製品製造原価(当期に製造した製品のコスト)」を用いる点が異なります。製造原価には原材料費、製造に関わる労務費、製造設備の減価償却費などが含まれ、製造原価報告書を通じて売上原価に反映されます。
正確な売上原価を算出するためには、期末の在庫を正しく把握する棚卸作業が不可欠です。棚卸の精度が低いと、粗利計算に誤差が生じ、経営判断を誤るリスクにつながります。売上原価は財務諸表の粗利計算に直結する数字であるため、日常的な在庫管理と期末の棚卸を徹底することが実務上の大きなポイントです。
業種・業態ごとの売上原価の特徴
-
売上原価の構成は業種によって大きく異なります。小売・卸は仕入原価が中心で在庫管理が重要、製造業は材料費や労務費を含む製造原価、飲食は食材費、サービス・情報通信は外注費やインフラ費などが該当します。在庫を扱うか否かで計算視点や原価率の水準も変わる点に注意が必要です。
小売業・卸売業
-
小売業や卸売業における売上原価の大半は仕入原価です。販売した分だけが売上原価となり、売れ残りは在庫として資産計上されます。したがって、棚卸作業を通じて在庫数量を正確に把握することが極めて重要です。もし棚卸差異が生じれば、その差分はロスとして売上原価に含められます。また、市場価格が下落した商品については「低価法」に基づき評価損を計上し、売上原価に反映させるケースもあります。
卸売業は中間流通の役割を担うため、薄利多売の傾向が強く、売上原価率は平均して8割前後と高めになる傾向があります。一方、小売業は消費者への直接販売により付加価値を上乗せしやすく、粗利率はやや高めです。ただし、商材や販売チャネルによって変動幅は大きいため「目安」として捉える必要があります。
改善策としては、仕入先との交渉による仕入価格の低減、SKU整理による不良在庫の削減、需要予測に基づいた発注最適化が有効です。また、EC販売などチャネルを広げて在庫回転率を高めることも、売上原価率改善につながります。なお、在庫評価や原価率の詳細は経済産業省の統計や公的情報を確認することが望まれます。
サービス業
-
サービス業の特徴は、モノの在庫を持たず、売上原価に該当する費用が少ない点です。外注費やライセンス料など一部の直接費を除けば、多くの費用は販管費に区分されます。そのため粗利率は高く見えますが、実際には人件費やオフィス賃料、広告費など販管費の比重が大きいため、営業利益率は必ずしも高くありません。
例えば、コンサルティング業や士業では売上原価がほとんど発生せず、売上総利益は売上高に近い数字になります。しかし、そこで発生する人件費や間接経費が収益を圧迫するため、利益管理は「総コスト」を基準に行うことが不可欠です。
サービス業の採算管理では、外注費などの直接費用がある場合には推移を把握するとともに、販管費を含めた総コストと売上のバランスを重視する必要があります。原価率が低いからといって安心せず、稼働率や固定費の水準を考慮した収益管理が求められます。
飲食業
-
飲食業における売上原価は、食材を中心とした材料費が大部分を占めます。米や肉、野菜、調味料など料理提供に直接必要なものが対象です。ホールスタッフの人件費や光熱費、店舗備品の費用は通常は販管費に区分されますが、特定メニューの専属職人への謝礼などは例外的に売上原価に含められる場合もあります。
飲食業で重要なのは廃棄ロスや歩留まりの管理です。仕入れた食材が余って廃棄されれば、その分が売上原価を押し上げ、利益を圧迫します。需要予測に基づく仕入調整や在庫回転率の改善が不可欠です。また、原価率が高すぎるメニューは価格改定や食材の代替、ポーション調整によって採算を見直す必要があります。
一般的に飲食店の食材原価率は30%前後が目安とされますが、業態や店格によって大きく変動します。高級店では40%超になることもあれば、低価格業態では25%以下に抑えることもあります。統計による根拠を確認しつつ、自店の業態に合った目標原価率を設定することが大切です。
製造業
-
製造業では「売上原価」にあたるものを「製造原価」と呼ぶのが一般的です。製造原価は、製品を作るために必要な材料費、労務費(作業員の給与)、製造間接費(設備の減価償却費や工場の光熱費など)を合計したものです。これらは「製造原価報告書」にまとめられ、財務諸表に反映されます。
完成した製品は一旦「製品在庫」として資産計上され、販売時点で売上原価に振り替えられます。この仕組みにより、販売数量と対応したコストだけが当期の売上原価に含まれます。
製造業の原価率は平均して約8割前後とされ、粗利率は2割前後です。高い原価率の背景には、固定費としての工場運営コストが大きく影響しています。改善策としては、不良品削減や歩留まり向上、工程の自動化による効率化、代替材料の活用などが挙げられます。また、操業度(生産量)と固定費の吸収率の関係を把握し、生産計画を適切に立てることも重要です。
情報通信業
-
情報通信業(IT・SaaS・通信サービス)は、物的な在庫を持たないため、売上原価に該当する費用は外注費やクラウド利用料、通信回線費などに限られる傾向があります。一方で、エンジニアや営業担当者の人件費は販管費として扱われるため、粗利率は高く見えやすいものの、実際には人件費比率が非常に高く、営業利益率は必ずしも高くありません。
例えばクラウドサービスを提供する企業では、AWSやAzureといったインフラ利用料が売上原価に含まれます。ソフトウェア開発案件では外部委託費が原価に計上されるケースもあります。ただし、開発者の給与やオフィス費用は販管費に含まれるため、原価区分は企業方針や会計処理によって差が出やすい点に注意が必要です。
情報通信業の課題は、案件単位での採算が見えにくいことです。工数集計や外注費をプロジェクト別に記録し、売上と対比して原価率を算出する仕組みを持つことが重要です。近年はクラウド型のプロジェクト管理ツールや販売管理システムを活用し、サービス別・案件別の粗利をリアルタイムに可視化する取り組みが広がっています。これにより「見えにくい原価」を把握し、収益性改善に直結させることが可能です。
売上原価を改善するには販売管理システムの導入がおすすめ
-
売上原価を改善するには、日々の取引データを正確に把握し、迅速に経営判断へつなげる仕組みが欠かせません。その有力な手段が販売管理システムの導入です。
まず、販売管理システムを使うことで、売上・仕入データを一元管理し、取引先別や商品別の粗利・原価をリアルタイムに可視化できます。決算を待たずに「どの商品が高コストか」「どの案件が赤字になりそうか」を把握できるため、早期に対策を打つことが可能になります。
在庫管理の最適化も大きなメリットです。不足アラートや自動発注機能により欠品や発注漏れを防ぎ、販売機会の損失を抑制します。さらに、棚卸データをシステムで一元管理することで、不明在庫やロスを素早く検知し、在庫回転率を高めることができます。
また、見積書・発注書・請求書などの帳票発行を自動化できるため、手作業による転記ミスや入力漏れを防止し、業務効率が大幅に向上します。入出金管理や承認フローとも連携させれば、内部統制の強化にもつながります。
クラウド販売管理システム「s-flow」では、プロジェクト単位での粗利分析や予定在庫数の自動算出、所定の条件を満たした商品の一括発注などが可能です。中小企業向けに設計されており、クラウド型のため低コストから導入できる点も魅力です。これにより、売上原価の改善と業務効率化を同時に実現でき、経営の意思決定を支える基盤として活用できます。
まとめ
-
本記事では「売上原価」とは何か、その定義や販管費との違いを整理し、計算方法や業種ごとの特徴を解説しました。売上原価は粗利を生み出す基盤であり、価格戦略やコスト管理、品質改善に直結する重要な指標です。適切に把握・管理できなければ、利益計算に誤差が生じ、経営判断を誤るリスクもあります。
売上原価は「期首在庫+仕入−期末在庫」で計算され、業種によって構成要素や原価率が異なります。小売・卸では仕入原価、飲食では食材費、製造業では材料費や労務費、サービス・情報通信業では外注費やインフラ費などが中心となります。業種特性に応じて原価管理の着眼点を変えることが、利益改善の第一歩です。
さらに、発注・在庫・帳票管理の効率化は売上原価改善に直結します。その解決策として、クラウド販売管理システム「s-flow」は、売上と原価のリアルタイム可視化や予定在庫、不足品の発注機能を備えており、中小企業でも導入しやすい環境を整えています。自社の売上原価を改善し、より安定した経営基盤を築くために、こうしたシステムの活用を検討することは有力な選択肢といえるでしょう。
- クラウド販売管理システム【s-flow】コラム編集部
- s-flowのコラムでは、販売管理・受発注管理・在庫管理・入出金管理をはじめとした各業務や管理に関連する「お役立ち情報」をご紹介しております!